CAEなどの科学計算技術の活用によって、人の思い描いた理想を瞬時に形にできる世界の実現を目指す株式会社RICOS。
今回のインタビューでは、同社の代表取締役・最高経営責任者を務める井原遊様に、「RICOS Production Suite」の詳細や、今後の会社のビジョンについてお話しを伺いました。
インタビュイー
井原 遊
株式会社RICOS
代表取締役・最高経営責任者
東京大学で、CAEアプリケーションを題材に計算科学に関する研究を行う。CAEの利活用が不十分な現状を改善するために、手軽に使うことができるCAE プラットフォーム研究開発や、計算手法の改良による計算の高速化などの研究プロジェクトに従事。博士課程在学中に研究アセット活用のために、東大アントレプレナー道場に出場し、最優秀賞を受賞。その後、2015年12月にRICOSを創業。約20年間のWebサービス運用・開発経験有。
製造業の設計フローを高速化する株式会社RICOS
事業内容のご紹介からお願いいたします。
当社は、製造業の設計を高度化することを目指しています。
具体的な手順としては、設計や評価に使われる「CAE」と呼ばれるシミュレーション技術に機械学習を組み合わせることによって、既存の設計フローを高速化・高度化させようと考えています。
そのためのステップとして、シミュレーションをAIによって高速化するツールを展開中です。このツールによって、より良い製品を検討するためのプロセスが高速化されます。
井原さんのご経歴について教えてください。
大学時代は海洋系の研究をしていまして、実データと観測データを用いて統計的なシミュレーションを行っていました。
その後、大学院で工業製品を対象としてCAEに関する研究を行うようになります。ここではスーパーコンピューターを使って、高精度にシミュレーションを行うのですが、実際の製造業の現場で応用するのはリソースの観点から難しいのではないかと思っていました。
ちょうどそのタイミングで東京大学の起業コンテストの案内があり、シミュレーション技術についてのアイデアを発表したところ、最優秀賞を受賞しました。
実際にビジネスとして展開していくために2015年にRICOSを創業し、現在に至ります。
製造業の設計・評価におけるプラットフォーム「RICOS Production Suite」
「RICOS Production Suite」とはどのようなサービスなのでしょうか?
製造業の設計・評価におけるMicrosoft 365(旧Office 365)のようなプラットフォームとなることをイメージして、「RICOS Production Suite」という名前を付けました。
Microsoft 365にWordやExcelなどがあるように、RICOS Production Suiteには、複数のサブセットとなるツールがあります。
AIベースドなCAEを提供する「RICOS Lightning」、形状生成・評価・改善ツール「RICOS Generative CAE」、従来のCAEを簡単に利用できる「RICOS Cloud CAE」の3つが主なツールです。
現状ではRICOS Lightningが当社の主軸製品となっていまして、お客様側でリソースを用意しにくいことから、クラウドベースのサービスであることをご評価いただいています。
サービス開発のきっかけについて教えてください。
大学院時代に研究の一環として、クラウド上でCAEができるサービスを作っていたことがきっかけです。
シミュレーションを行うためのコンピューターは高額な上、ライセンスの取得にも数百万円以上のコストがかかります。
これだとまだ予算が十分にない中小企業がCAEを利用するのは現実的でないため、クラウドベースでCAEを提供する従量課金型のサービスを作り始めました。
当時3DをネイティブにWebで扱う技術が出始めたばかりで、真新しさはあったのですが、マネタイズには苦戦していました。
それから継続的に開発・メンテナンスを続け、AIベースドなCAE技術がアプリケーションとして完成します。
このアプリケーションと元々開発していたクラウドCAEのプラットフォームを組み合わせて提供すると便利ではないかと提供がスタートしました。
サービスの導入効果について教えてください。
当社サービスによって、CAEのワークフローを効率化することが可能です。
一般的な製造業の現場では、設計者が作成した案をCAE解析者がシミュレーションを行い、シミュレーション結果を設計者にフィードバックします。
このフィードバックを行うために数週間程度の期間を要することが多く、製品の納期を考えると、指を数える程度しかCAE解析を行えないというケースがほとんどです。
本来はフィードバックのやり取りを何度も繰り返すことができれば、設計の品質をより高められます。
当社のツールでは、設計者がCAE解析者に依頼する前に、簡単にシミュレーションを行えるので、精度の高い設計案のみをCAE解析者に依頼することが可能です。
通常のシミュレーションでよくある複雑な設定などは可能な限り排除して、シンプルに設計案の良し悪しを判断できる仕様にしています。
CAE解析者に依頼する前のスクリーニングツールとして利用していただくことで、CAEワークフローの効率化を実現しています。
どのような課題を持つ企業におすすめのサービスですか?
RICOS Lightningは、設計フローのシミュレーション適用に課題を感じているエンタープライズなグローバル企業におすすめのサービスです。
プロジェクトに関わっている人数が多く、細かく分業されている場合に効果的です。
RICOS Generative CAEは、最終製品の設計を行っている企業におすすめのサービスで、通常当社のコンサルテーションサービスと併用して提供しています。
軽量化などの性能向上を目的とした場合に利用可能で、複雑でない形状の製品の方が効果的です。
今後は「熱流体」にも適用範囲を広げ、設計ループも自動化できるように
今後の展望について教えてください。
RICOS Lightningは、今後「熱流体」にも適用できるように開発を進めています。
熱流体に適用範囲が広がることで、空気や液体等の流れと温度を一緒にシミュレーションできるようになります。
製品の冷却プロセスまでシミュレーション範囲が広がるので、これまで以上に効果的なシミュレーションが可能です。
またRICOS Generative CAEもRICOS Lightningと組み合わせることで、設計ループを自動化できるように開発しています。
人の場合、10回〜100回程度ループを回すのが限界ですが、自動化することで10万回以上ループを回せるようになります。
より多くのループを回せるようになることで、設計の品質をさらに高めることが可能です。
読者の方へ一言メッセージをいただけますか?
我々は製造業の方々の設計にお力添えさせていただきたいと思っています。
製造業にとって設計部門は、まさに重要なコアコンピタンスだと思います。この重要な部門の強化をご一緒させていただけると我々としても非常に光栄ですし、最大限努力させていただきます。
また現在当社では、エンジニアリングを強化中です。コアなプロダクト開発に興味がある方はぜひご応募ください。またCAEを利用されていた方も大歓迎です。